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【翻訳】ユーリイ・ユルチャク「好きなことを始めるのに遅すぎることはない」—英ロイヤルオペラハウス・ヤングアーティスト紹介

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ウクライナ人バリトンが、オペラとの遅かった出会いと、プロ歌手になるため会社勤めをやめて得たものについて語る

by ローズ・スラヴィン(アシスタント・コンテンツプロデューサー)

2016/2/19 11:00AM

(写真:ソニヤ王妃国際音楽コンクールで歌うユーリイ・ユルチャク)

28歳になるまで、ユーリイ・ユルチャクはオペラを一度も見たことがなかった。母国ウクライナから米国に移住した後、新しい趣味として歌のレッスンを受け始めただけだった。しかし彼の声の可能性に気づいた声楽教師は、クラシックの声楽トレーニングに進むよう勧め、そして——彼のやる気を引き出そうとして——彼をシカゴリリックオペラのオッフェンバック《ホフマン物語》公演に連れて行った。ユーリイはたちまちオペラのとりこになり、大手ファームPwC(プライスウォーターハウス・クーパース)の金融コンサルタントの仕事に身が入らなくなった。

「オペラは、人を感動させるように創られている芸術形式です」と、このキエフ生まれのバリトンは言う。「初めて観たオペラの衝撃、つづく数ヶ月のレッスンでオペラの世界と出会ったことは、僕の転身を勢いづけるのに十分なほど強烈でした」。

ユルチャクは、コンサルティングの仕事をパートタイムに切り替え、デポール大学音楽学部の課程に通う時間をつくった。彼はそこで《ラ・ボエーム》のマルチェッロ役でオペラデビューし、《ファルスタッフ》のフォード役も務めた。2年間、その都市[シカゴ]で、仕事と歌と勉強を両立した。この間に、彼は英国ロイヤルオペラハウスのジェット・パーカー・ヤングアーティスト(JPYA)プログラムのことを知った——声楽の勉強を続けながら、国際的レベルの舞台に立つ経験もできるという、彼には最適のプログラムだった。

「30歳になろうという年齢で変化を起こすのは、普通はためらうものです。でも、好きなことを始めるのに遅すぎるということは決してありません」とユーリイは言う。

JPYAプログラム——あらゆる年齢・国籍の応募者を受け入れている——は、ユルチャクに特別な資質があると認めた。2014年の入学後、自分よりずっと長くプロとしてのトレーニングを受けてきた同僚たちについていくのは大変だったとユーリイは思い出す。

「当時はとても緊張しました。初期の演奏会では、ステージから戻ったとき、どう歌ったか覚えていなかったくらいです」と彼は回想する。「今はもう、そんなことはありませんけどね!」

JPYAプログラムは、才能ある歌手の芸術的成長を支援すると同時に、ロイヤルオペラの公演で、代役や小さな役を務める機会も与えている。このトレーニングが、舞台上での演技に磨きをかけるヒントになったとユーリイは言う。

「自分はその役になりきっていると信じて、舞台に上がります。彼が考える考え、彼が感じる感じ方で。でも、オペラ歌手としては、その瞬間に自分自身を見失ってもいけないのです。指揮から離れないよう、演出を忘れないようにしながら、専門家として演じなくてはならないからです。経験を積むほど舞台上で楽に動けるようになり、演じる快感はやみつきになります」。

2015年、このウクライナ人バリトンは、数カ所の国際声楽コンクールに出場し、ノルウェーのソニヤ王妃国際音楽コンクールで3位、スペインのモンセラット・カバリエ国際コンクールとイタリアのオッターヴィオ・ジーノ・コンクールで2位を収めた。

将来的には、ユーリイはヴェルディバリトンの各役を歌いたいと思っている——ロドリーゴ(《ドン・カルロ》)、ジェルモン(《ラ・トラヴィアータ》)、レナート(《仮面舞踏会》)、ルーナ伯爵(《イル・トロヴァトーレ》)などだ。今シーズン後半、ロイヤルオペラハウスの観客は、《ラ・トラヴィアータ》のドゥフォール男爵と《ウェルテル》のヨハン役で彼を見ることができる。ユーリイはまた、JPYAの夏のコンサートで《エフゲニー・オネーギン》第3幕を歌うのをとても楽しみにしている——今シーズンの前半、彼の憧れの歌手であるドミトリ・ホロストフスキーが演じたタイトルロールを歌うチャンスだ。2016年9月には、ユルチャクはロイヤルオペラ・プリンシパルとしての新しい契約に入る。YPYAプログラム修了後もコヴェント・ガーデンに留まることのできる身分だ。

キャリア上の成長を続けるかたわら、ユーリイは、「遅すぎることはない」という自分の体験を、才能を探ってみればよかったと感じている人達に伝えたいと願っている。また、オペラ初心者の人達の後押しができればとも思っている。

「これまでも、今でも、オペラを一度も見たことがないという多くの友人達にオペラを紹介しています。オペラは万人向けのものではない、という誤解がありますね。でも、オペラの魔法は毎晩あの舞台上で起こっているんです。時には一回それを目撃しただけで、その後の一生、オペラが自分の一部になってしまう可能性も十分あるのです!」

JPYAプログラムは、オーク財団の惜しみない支援を受けています。プログラムの詳細はこちら。

(原文:Young Artist Profile: Yuriy Yurchuk – ‘It’s never too late to start doing something you love’ — News — Royal Opera House / 全訳・三浦真弓)

※この翻訳は、ロイヤルオペラハウスより、日本語翻訳・公開の許諾をいただいております。